ホーム

「センカクモグラを守る会」について

「センカクモグラを守る会」について

はじめに

現在、過剰な開発による自然環境の破壊、地球温暖化、外来生物といった原因により、生物の多様性が急速に失われつつある。既存の取り組みでは生物多様性を保全することは困難であるという認識から、1992年5月22日、「生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)」が採択された。同条約は1993年12月29日に発効し、2009年12月末現在において、193の国と地域が本条約を締結し、我が国も1993年に同条約を批准している。

同条約の第8条では、「生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」や「現在の利用が生物の多様性の保全及びその構成要素の持続可能な利用と両立するために必要な条件を整えるよう努力すること」と記されている。しかし、たとえば我が国固有の領土である尖閣諸島魚釣島に関しては、野生化したヤギのために島の生態系に多大な影響が生じ、数多くの固有種の存続が危ぶまれているにもかかわらず、適正な対応がとられているとは言い難く、締約国として生物多様性の保全の責任を果たしていない。

そこで、登山家の野口健、獣医学博士の山際大志郎、富山大学大学院理工学研究部准教授の横畑泰志が発起人となり、尖閣諸島魚釣島の生物多様性の保全を図るための組織として、魚釣島の固有種であるセンカクモグラの名前を冠し、「センカクモグラを守る会」の設立を決定した。

 

設立にあたり

野口健

私は、2002年より東京都の「エコツーリズム・サポート会議」の委員として、主に小笠原諸島におけるエコツーリズムの推進に携わってきた。複数回の会議の中で、人為的に持ち込まれたヤギによる生態系の破壊が深刻化していることを知った。小笠原には、その土地にしか生息していない「固有種」が多く確認されており、ヤギをはじめとするいわゆる「移入種」により「固有種」の存在が脅かされていたのである。 現在では、東京都の積極的な取り組みにより、ヤギの駆除がすすんでおり、生態系の保全に対する必要な措置がとられている。「センカクモグラ」の存在を知ったのもこの頃であるが、尖閣諸島は、いわゆる領有権に関する問題により、適正な保全がなされていないとのことだった。今からさかのぼること7年前から、この問題に対して何かしらのアクションが必要だと考えていた。  

尖閣諸島とは、南西諸島西表島の北方に位置する島嶼群であり、行政区域としては沖縄県石垣市に属している。魚釣島、北小島、南小島、久場島(黄尾礁)、大正島(赤尾礁)の 5つの島嶼とおよび岩礁から成り立っており、中でも最大の面積をもつ魚釣島には、センカクモグラをはじめ、センカクサワガニ、センカクツツジ等、多くの固有種が確認されている。しかし、1978 年に、人為的に放逐されたヤギが数百頭にまで増殖したことにより、生態系に大きな影響を及ぼし、これらの生物の絶滅の危機が指摘されている。

一例をあげれば、センカクモグラは、日本哺乳類学会により、危急種に指定され、環境省および沖縄県のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物「動植物」のリスト)では最も絶滅のおそれの高い絶滅危惧 IA 類に指定されている。にもかかわらず、領有権に関する問題から、1991年以降、現在に至るまで一度も上陸調査が行われていないのだ。 2010年は、COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が愛知県名古屋市にて開催される。同条約の第8条では、「生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」や「現在の利用が生物の多様性の保全及びその構成要素の持続可能な利用と両立するために必要な条件を整えるよう努力すること」と記されている。我が国は1993年に同条約を批准しているが、こと尖閣諸島に関しては、締約国として生物多様性の保全の責任を果たしていないと言えるのではないか。

このような思いから「センカクモグラを守る会」は発足した。固有種は、全人類の共有の財産ともいえる。ただし、固有種ゆえに、一度失ってしまったら取り戻せない。小笠原諸島でも山羊によって固有種であるムニンツツジが絶滅の危機に瀕した。そこで徹底した調査、駆除を行った。菅首相は「領土問題は存在していない」と断言されている。であるならば、尖閣諸島も小笠原諸島同様に、上陸し調査活動などのフィールドワークが可能なはずだ。 今後は、魚釣島の生物多様性の価値と保全の緊急性を訴え、上陸調査やヤギの除去を行うことのできるように、政府へ要望していく。

 

山際大志郎

 2010年9月、尖閣諸島沖の日本領海において中国漁船が海上保安庁の巡視艇に衝突する、という事件が起きた。この事件に端を発し、ともすれば平和ボケと称される私たち現代日本人にも、領土領海に関する危機感が生まれることになった。さらに政府がこの事件の処理をうまくし得なかったことで、国民の危機感は否応なしに強くなった。こういった経緯の中で、今までほとんど注目されなかった「尖閣諸島」が、急に多くの注目を集めるようになった。かくいう私もこの事件が起きるまでの尖閣諸島に対する認識は、日本の領土の端で、日々海上保安庁や海上自衛隊が守っていることは知っていても、領土や領海が大きく脅かされることは想像の域を超えないものであった。  このままでは日本の領土が危ない、何か行動を起こさなければ、との思いから、知己である野口健氏に電話をした。野口氏は当時アフリカ遠征中であったにも拘わらず、この事件に関して大きな危機感を持っていた。その上、何年も前から尖閣諸島について「環境」という別の視点から大きな問題意識を持ち続けていた。同氏は帰国したらすぐに行動を起こすことを約束してくれた。

 野口氏の帰国を待って、私たちは「環境問題」、すなわち人工的に放たれたヤギの増殖による固有環境の破壊、についての知見を集め議論を深めた。そして「いわゆる領有権の問題」を解決することも重要だが、尖閣諸島魚釣島の固有環境が破壊され続けている状況も大きな問題であり、この際私たちは「環境問題」に論点を絞って問題解決に向けて行動し、結果として「いわゆる領有権の問題」の解決に寄与しようとの結論に至った。 そこで失われつつある尖閣諸島魚釣島の固有環境と固有種を象徴するセンカクモグラを冠して「センカクモグラを守る会」を設立し、国民運動を展開することとした。

さらに会の設立、運営にあたって、魚釣島の「環境問題」の専門家である横畑泰志博士にご参加いただき、具体的な行動を起こすこととした。 私は過去6年間にわたって、生物学を学んだバックボーンをもつ数少ない政治家として衆議院議員を務めたにも拘わらず、尖閣・魚釣島の「環境問題」を看過してしまった。まさに政治の不作為であり、慙愧に堪えない。遅きに失したとはいえ「いわゆる領有権の問題」があるために人類共有の貴重な財産である生物多様性が失われることのないよう、鋭意活動を展開していきたい。 。

 

横畑泰志

この度、登山家の野口 健氏を中心とする人々の手によって、「センカクモグラを守る会」が設立されました。この会は、尖閣諸島最大の島嶼である魚釣島に住む、知られているだけでも10余種に及ぶ固有の生物と、それをとりまく島の生態系を、人為的に持ち込まれ、爆発的に増殖してしまったヤギの影響による生態系の崩壊から救うことを目的としています。 魚釣島は約2万年前に大陸から独立し、その後独自の生態系を築き上げてきた亜熱帯の小規模島嶼という、他にはみられない独自の歴史を持っています。独立したのがわずか2万年前であるにも関わらず、センカクモグラなどの多数の固有種のみられる魚釣島は、自然が生み出した生物進化の実験場として学術的にも極めて価値が高く、全人類共通の財産として末永く保全してゆかねばならない生物多様性の宝庫です。 魚釣島のヤギは1970年代末に日本人が持ち込んだ雌雄各1頭の子孫であり、1991年の海上からの観察では南斜面だけで300頭ほどが確認されました。その増加のほどは、後に人工衛星の画像などで明らかになった島全体の植生の衰退、裸地や崖崩れの増加、特定の植物群落の消滅などの情報とともに、生物多様性の保全に関心を持つ多くの人々に衝撃を与えました。 現状を放置すれば、ヤギの食害や踏圧、排泄物による汚染によって島の生態系は著しく破壊され、私たちは固有の生物という数多くの隣人を永久に失うことになるでしょう。にも関わらず、私たちは社会的な制約などから上陸調査や生態系からのヤギの排除といった効果的な対策をとれずにいます。 この状況を打開するには、島の生物や生態系を守りたいという大きな世論を形成し、対策をとることのできる社会的な環境を整備してゆかなければなりません。

2010年は名古屋で第15回生物多様性条約締約国会議が行われ、生物多様性の主流化が叫ばれた「国際生物多様性年」でした。 今後10年間は「生物多様性の10年」として、国内外で様々な活動が行われてゆくことでしょう。私たち「センカクモグラを守る会」は、それらの動きの一つとして、魚釣島の生物多様性や生態系の保全の必要性を、社会に強く訴えてゆきます。

 

現状と課題

 

尖閣諸島は、南西諸島西表島の北方に位置する島嶼群であり、行政区域としては沖縄県石垣市に属している。魚釣島、北小島、南小島、久場島(黄尾礁)、大正島(赤尾礁)の 5つの島嶼とおよび岩礁から成り立っている。尖閣諸島には、センカクモグラをはじめ、センカクサワガニ、センカクツツジ等、多くの固有種が確認されている。

しかし現在、これらの生物の絶滅の危機が指摘されている。一例をあげれば、センカクモグラは、日本哺乳類学会により、危急種に指定され、またいずれも環境省および沖縄県のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物「動植物」のリスト)では最も絶滅のおそれの高い絶滅危惧 IA 類に指定されている。

これは、尖閣諸島の中でも最大の面積を持つ魚釣島において、1978 年に、我が国の民間政治団体によって意図的に放逐されたヤギが数百頭にまで増殖したことにより、生態系に大きな影響を及ぼしているためである。1991年に行われた調査では、島の面積がわずか3.8km2であるにもかかわらず、海上からの観察で少なくとも300頭以上が確認されている。しかしながら尖閣諸島に関しては、領有権に関する問題により、現状把握の調査自体がほとんど行われていない。2000年、2006年などに撮影された人工衛星の画像では島の表面積の10~20%がヤギの影響で裸地化しているのが確認され、2002年の航空写真ではいくつかの植物群落の消滅が確認されている。日本哺乳類学会は2002 年度大会において「尖閣諸島魚釣島の野生化ヤギの対策を求める要望書」を採択し、環境省、外務省、沖縄県および石垣市に提出した。その翌年、日本生態学会および沖縄生物学会も同様の要望書を採択し、環境省などに提出している。また、2001年には国会議員から日本政府に対して政府の認識をただし、ヤギの除去の意思を問う質問趣意書が提出されているが、いずれも政府の見解は消極的であった。

 

当会の活動

 

このような状況において、専門家による上陸調査を実施し、最終的に魚釣島のヤギを取り除くことが喫緊の課題である。これらを行うには、尖閣諸島を管理する日本政府・内閣官房の許可が必要であり、現状では世論の強い後押しのない限り、上陸をともなう活動は不可能である。「センカクモグラを守る会」は、尖閣諸島の生物多様性の保全を図るにあたり、とかく領土問題の観点からばかり議論される現状に対して、忘れ去られた固有の生物の保全の必要性を広く世論に訴えかけていくこととする。当面は、沖縄県など日本各地で講演会などを実施し、魚釣島の生物多様性の価値と保全の緊急性を訴え、上陸調査やヤギの除去を行うことのできる社会的環境づくりを目指す。

 

連絡先:東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館本館 3階

野口健事務所内「センカクモグラを守る会」

電話:03-3426-2487

最終更新日  2011年1月31日